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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)4898号 判決 1989年8月23日

原告 研斗工業株式会社

右代表者代表清算人 細見真道

右訴訟代理人弁護士 湊成雄

被告 株式会社英和(登記簿上の商号)有限会社英和

右代表者代表取締役 柳川瀬隆志

被告 清水化学工業株式会社

右代表者代表取締役 清水多吉

被告 有限会社トーマック商会

右代表者代表取締役 山下奉夫

右被告三名訴訟代理人弁護士 高木国雄

同 村田豊

同(被告株式会社英和、同清水化学工業株式会社の関係では訴訟復代理人) 濱田広道

主文

一、被告株式会社英知は、原告に対し、

(1)  別紙物件目録(一)の一ないし四記載の各土地につき、水戸地方法務局那珂湊出張所昭和五〇年一月二三日受付第二五五五号をもってした各根抵当権設定登記の、

(2)  同目録(二)の一記載の土地につき水戸地方法務局那珂湊出張所昭和五〇年二月六日受付第四九八二号、同目録(二)の二ないし四記載の各土地につき水戸地方法務局前同日受付同号をもってした各根抵当権設定登記の

各抹消登記手続をせよ。

二、被告清水化学工業株式会社は、原告に対し、

(1)  別紙物件目録(三)の一ないし四記載の各土地につき、水戸地方法務局那珂湊出張所昭和五〇年一月二三日受付第二五五三号をもってした各根抵当権設定登記の、

(2)  同目録(四)の一、二記載の各土地につき、水戸地方法務局昭和五〇年八月一日受付第三二〇二一号をもってした各根抵当権設定登記の、

(3)  同目録(五)の一記載の土地につき水戸地方法務局那珂湊出張所昭和五〇年二月六日受付第四九八三号、同目録(五)の二ないし七記載の各土地につき水戸地方法務局前同日受付同号をもってした各根抵当権設定登記の

各抹消登記手続をせよ。

三、被告有限会社トーマック商会は、原告に対し、

別紙物件目録(二)の二ないし四及び同目録(五)の二ないし七記載の各土地につき、水戸地方法務局昭和五〇年二月二〇日受付第七二三八号をもってした各抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

四、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文同旨

二、請求の趣旨に対する答弁

(被告ら)

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 別紙物件目録(一)ないし(五)記載の各土地(以下「本件各土地」という。)は、いずれも原告の所有である。

2.(一) 被告株式会社英和(登記簿上の商号は、組織変更前の商号である有限会社英和のままである。)は、別紙物件目録(一)の一ないし四記載の各土地につき水戸地方法務局那珂湊出張所昭和五〇年一月二三日受付第二五五五号をもってした各根抵当権設定登記、同目録(二)の一記載の土地につき水戸地方法務局那珂湊出張所昭和五〇年二月六日受付第四九八二号をもってした根抵当権設定登記及び同目録(二)の二ないし四記載の各土地につき水戸地方法務局前同日受付同号をもってした各根抵当権設定登記をそれぞれ有している。

(二) 被告清水化学工業株式会社は、別紙物件目録(三)の一ないし四記載の各土地につき水戸地方法務局那珂湊出張所昭和五〇年一月二三日受付第二五五三号をもってした各根抵当権設定登記、同目録(四)の一、二記載の各土地につき水戸地方法務局昭和五〇年八月一日受付第三二〇二一号をもってした各根抵当権設定登記、同目録(五)の一記載の土地につき水戸地方法務局那珂湊出張所昭和五〇年二月六日受付第四九八三号、同目録(五)の二ないし七記載の各土地につき水戸地方法務局前同日受付同号をもってした各根抵当権設定登記を有している。

(三) 被告有限会社トーマック商会は、別紙物件目録(二)の二ないし四及び同目録(五)の二ないし七記載の各土地につき、水戸地方法務局昭和五〇年二月二〇日受付第七二三八号をもってした各抵当権設定登記を有している。

3. よって、原告は被告らに対し、本件各土地の所有権に基づき、被告らの有する前項記載の各根抵当権設定登記(以下「本件根抵当権設定登記」という。)並びに抵当権設定登記(以下「本件抵当権設定登記」という。)の各抹消登記手続を求める。

二、請求原因に対する認否

(被告ら)

1. 請求原因1の事実のうち、原告がもと本件各土地の所有権を有していたことは認める。

2. 同2の事実は認める。

三、抗弁

1. 贈与契約

原告は被告清水化学工業株式会社の代表者である訴外清水多吉に対し、昭和五〇年九月ころ、本件各土地を贈与したから、現在本件各土地の所有者ではない。

すなわち、原告会社は昭和五〇年二月中旬ころ事実上倒産しその私的整理が行われ、債権者であった被告清水化学工業株式会社の代表者訴外清水多吉は、原告及び一般債権者から懇請されて債権者委員長となり売掛金の回収等に尽力し、原告に対する一般債権者や優先債権者との間の種々の折衝等に努力し、昭和五〇年七月ころ債権者委員会に漕ぎつけ、債権者委員会に委任をしていた一般債権者の債権総額八七四七万二七一五円に対して収集した配当財源金五〇万四五七一円の配当をなし(配当率〇・五七六八パーセント)、私的整理を事実上終了した。その結果、原告会社は、債権者委員長として原告会社の私的整理を取り仕切ってきた訴外清水多吉を慰労する目的で本件土地を贈与したのである。

2. 根抵当権設定契約及び抵当権設定契約

(一)  被告株式会社英和

被告株式会社英和は原告に対し、昭和四九年ころから昭和五〇年一月ころまでの間に、ビニールカードほかの商品を合計金一〇三四万四九七一円で売掛け、同被告は右債権を担保するために、同被告と原告間に原告を根抵当権設定者として、昭和五〇年一月八日別紙物件目録(一)の一ないし四記載の各土地に、同年二月五日同目録(二)の一ないし四の各土地にそれぞれ極度額二〇〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結し、右各根抵当権設定契約に基づき右各土地に請求原因2の(一)記載のとおり登記をした。

(二)  被告清水化学工業株式会社

被告清水化学工業株式会社は原告に対し、昭和四九年ころから昭和五〇年一月ころまでの間にポリ袋等の商品を合計金一六五八万七一一八円で売掛けたものであり、同被告は右債権を担保するために、同被告と原告間に原告を根抵当権設定者として、(1) 昭和五〇年一月八日別紙物件目録(三)の一ないし四記載の各土地に極度額をそれぞれ三〇〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結し、(2) 同年二月五日同目録(五)の一ないし七記載の各土地にそれぞれ極度額三〇〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結し、(3) 同年一月五日別紙物件目録(四)の一、二記載の各土地にそれぞれ極度額三〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結し、右各根抵当権設定契約に基づき右各土地に請求原因2の(二)記載のとおり登記をした。

(三)  被告有限会社トーマック商会は原告に対し、布団の縫製代金債権金六九七万一三〇〇円の支払のために原告振出しの手形の交付を受けたが、一回も手形の決済を受けないうちに原告が倒産したため、昭和五〇年二月一九日同被告は原告と右債権の支払があるまでこれを担保するために別紙物件目録(二)の二ないし四及び同目録(五)の二ないし七の各土地に抵当権の設定契約を締結し、右契約に基づき右各土地に請求原因2の(三)記載のとおり登記をした。

四、抗弁に対する認否

1. 抗弁1の事実は否認する。

2. 抗弁2の(一)ないし(三)の各事実は否認する。

原告は昭和五〇年一月一七日に不渡り手形を出して事実上倒産したが、本件根抵当権設定登記及び本件抵当権設定登記は、原告倒産時に暴力団関係者に持ち出された原告の実印、書類等を流用してなされたものであり、原告と被告ら間には前項記載の根抵当権設定契約(以下「本件根抵当権設定契約」という。)及び抵当権設定契約(以下「本件抵当権設定契約」という。)はいずれも存しない。

五、再抗弁(被担保債権の消滅)

1. 被告株式会社英和に対して

(弁済)

仮に本件根抵当権設定契約が成立しているとしても、原告倒産当時の原告の被告株式会社英和に対する負債は金四四七万円を超えることはなかったところ、同月一〇日に原告が倒産に関して事前の事情説明をした直後、被告株式会社英和は原告の在庫商品を五〇〇万円相当分を持ち去り自己の債権の弁済に充当したので、原告の同被告に対する債務は消滅した。

(消滅時効)

また、仮に被告株式会社英和の原告に対する売掛債権又は手形債権が存在するとしても、その最終の弁済期である昭和五〇年から一〇年以上を経過しており、右債権はいずれも時効により消滅しているので、原告は右消滅時効を援用する。

したがって、被告株式会社英和の有する本件各根抵当権はいずれも被担保債権が消滅しており無効である。

2. 被告清水化学工業株式会社に対して

(弁済)

仮に本件根抵当権設定契約が成立しているとしても、原告倒産当時の原告の被告清水化学工業株式会社に対する負債は金一四六二万円の手形債権であったところ、同月一〇日に原告が倒産に関して事前の事情説明をした直後、被告清水化学工業株式会社は原告代表者細見真道所有の半田画伯作の「けしの花」の絵(一〇〇号、時価一五〇〇万円相当)を持ち去り自己の債権の弁済に充当したので、原告の同被告に対する債務は消滅した。

(消滅時効)

また、仮に清水化学工業株式会社の原告に対する売掛債権又は手形債権が存在するとしても、その最終の弁済期である昭和五〇年から一〇年以上を経過しており、右債権はいずれも時効により消滅しているので、原告は右消滅時効を援用する。

したがって、被告清水化学工業株式会社の有する本件各根抵当権はいずれも被担保債権が消滅しており無効である。

3. 被告株式会社トーマック商会に対して

(消滅時効)

仮に株式会社トーマック商会が本件抵当権を有し、原告に対して何らかの債権を有していたとしても、その最終の弁済期である昭和五〇年から一〇年以上を経過しており、右債権はいずれも時効により消滅しているので、原告は右時効を援用する。

四、再抗弁に対する認否

1. 被告株式会社英和に対する再抗弁1の事実は否認する。同2の消滅時効の主張は争う。

2. 被告清水化学工業株式会社に対する再抗弁1の事実のうち右被告が原告主張の絵画を譲り受けたことは認めるが、絵画の価値が当時一五〇〇万円であったとの主張は争う。同2の消滅時効の主張は争う。

3. 被告株式会社トーマック商会に対する再抗弁については争う。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因1の事実のうち原告が本件各土地をもと所有していたこと並びに請求原因2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、抗弁について判断する。

1. 抗弁1(贈与契約)について

被告らは、本件土地は、原告代表者が原告の倒産に際し債権者委員長として尽力した訴外清水の労に報いるために同人に贈与してくれたものであり、原告は現在その所有権を有していないと主張するので検討する。

被告清水化学工業株式会社代表者清水多吉の尋問結果中には、「昭和五〇年一月八日に原告が倒産した際に、被告清水化学工業株式会社が一番の大口債権者であったため、他の債権者から推薦されて自分が債権者委員会の委員長となり、私的整理に助力して配当手続を終了し原告会社を解散するに際し、原告代表者がいろいろ迷惑をかけたので、いくらかでも残っていれば役立てて下さいと言って本件各土地を自分に贈与してくれ、土地の権利証、実印、印鑑証明書等を手渡してくれた。」旨の被告らの主張に副う部分がある。

しかし、被告らからは贈与の事実を裏付けるような契約書等の書証が提出されていないうえ、右清水多吉の供述内容を検討してみても、もし真実訴外清水多吉が債権者らの委託を受けて原告会社の私的整理をおこなっていたのだとすれば、原告会社の財産である本件各土地を債権者に配当することなく、訴外清水多吉個人において自らこれを贈与により取得してしまうというようなことは不自然であるし、訴外清水多吉が管理している財産を原告代表者が訴外清水多吉に贈与するということも不可解であるといわざるをえない。また、右清水多吉に迷惑をかけたとか労に報いるというのであれば、既に抵当権が設定され財産的価値の乏しい本件各土地をわざわざ贈与するということも不合理であるし、債権者委員会が支払うのであればともかく、原告代表者が清水多吉個人に贈与しなければならないような合理性は見出し難い。結局、右清水多吉の供述する内容中、清水多吉個人が本件各土地の贈与を受けたとの部分は不合理不自然であり、これを否定する原告代表者尋問の結果と対比してたやすく措信できない。

また、他に被告らの右贈与の抗弁を認めるに足る証拠もないから、被告らの右抗弁は認めることができず、本件各土地の所有権は現在も原告が有しているというべきである。

2. 抗弁(本件根抵当権設定契約及び抵当権設定契約)について

原告は、本件根抵当権設定登記及び抵当権設定登記につき、原告倒産時に暴力団関係者に持ち出された原告の実印、書類等を流用して原告に無断でなされたものであるとして、本件根抵当権設定契約及び抵当権設定契約の存在を否認する。しかし、仮に右各設定契約が成立しているとしても、原告の主張するように本件根抵当権及び抵当権の各被担保債権が消滅してしまっていれば、担保物権の附従性により本件根抵当権及び抵当権はいずれも消滅しその登記も無効となるから、設定契約の成否はともかくとして、まず再抗弁事実について判断する。

3. 再抗弁(被担保債権の消滅)について

再抗弁事実のうち、消滅時効の抗弁についてまず判断する。

被告の主張によると、(1) 被告株式会社英和は原告に対し、昭和四九年ころから昭和五〇年一月ころまでの間に売掛けたビニールカード等の商品の代金合計金一〇三四万四九七一円を担保する目的で昭和五〇年一月八日別紙物件目録(一)の一ないし四記載の各土地に、同年二月五日同目録(二)の一ないし四の各土地にそれぞれ本件根抵当権を設定したというのであり、(2) 被告清水化学工業株式会社は原告に対し、昭和四九年ころから昭和五〇年一月ころまでの間に売掛けたポリ袋等の商品代金合計金一六五八万七一一八円を担保とする目的で、昭和五〇年一月八日別紙物件目録(三)の一ないし四記載の各土地に、同年二月五日同目録(五)の一ないし七記載の各土地に、同年一月五日別紙物件目録(四)の一、二記載の各土地にそれぞれ根抵当権を設定したというのであり、(3) 被告有限会社トーマック商会は原告に対し、布団の縫製代金債権金六九七万一三〇〇円を有していたところその支払を受けないうちに原告が倒産したため、昭和五〇年二月一九日同被告は右債権の支払を担保するために別紙物件目録(二)の二ないし四及び同目録(五)の二ないし七の各土地にそれぞれ抵当権を設定したというのであり、また、原告会社は昭和五〇年二月中旬ころ倒産し、訴外清水が中心となってその私的整理を行い、昭和五〇年七月ころ債権者委員会において収集した配当財源金五〇万四五七一円についての各債権者に対し配当をなし私的整理を事実上終了したというのである。

ところで、被告らの主張する右の事実を前掲にしてみても、被告らが原告に対して有していた本件根抵当権及び抵当権の被担保債権である売掛代金債権等については、昭和五〇年七月ころ原告会社の私的整理により配当がなされ、右各債権の一部弁済がなされ、その後既に一〇年以上を経過しており、いずれも時効により消滅していることが認められる。

そうすると、被告らの主張事実をそのまま認めるとしても、被告らの有する本件各根抵当権及び抵当権は、いずれもその被担保債権がすでに時効により消滅しているのであるから、担保物権の附従性の原則により右各根抵当権及び抵当権自体もまた消滅したものというべきである。なお、右の根抵当権の附従性に関しては、被担保債権の元本の確定が問題となるが、本件の場合には前記のとおり被告の主張する事実に従えば、原告は昭和五〇年二月ころ事実上倒産し原告と被告らの取引が終了したことが認められるうえ、その私的整理が行われ債権者委員会による最終配当がなされて私的整理が終了しているのであるから、それ以後は原被告間に新たな元本債権が発生する余地もなくなったものというべく、遅くとも最終配当がなされた時点においては被担保債権の元本は確定したものというべきである。

4. 以上によれば、本件各土地については原告が現在所有権を有しているところ、被告らが右各土地について有する根抵当権設定登記及び抵当権設定登記はいずれも無効なものであるから、原告は本件各土地所有権に基づいて右各登記の抹消登記手続を求めることができる。

5. よって、原告の本訴請求は理由があるから、その余の点について判断するまでもなく認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林崇)

<以下省略>

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